夫の工房を求め、東京から自然豊かな足利へ

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その古民家に足を進めると、目の前に大きな土間が広がる。空間を彩るのは、イタリアを中心にヨーロッパで見つけたアンティーク家具や器たち。壁にも古い農具や馬具が飾られ、古民家の雰囲気にしっくりと馴染んでいる。

足利市の街なかから車で北へ20分ほど。里山に抱かれたこの古民家に暮らすのは、「antiques BAGATTO(アンティークス バガット)」を営む塩見奈々江さんと、アンティーク家具のレストアや金工、骨董市の企画・運営などを手がけるご主人の和彦さん。二人は2015年6月に、東京からこの地へ移り住んだ。

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移住のきっかけは、和彦さんが音を気にせずに作業ができる工房がほしかったこと。二人とも親が東京に暮らしているため、日帰りできる100キロ圏内を条件に、伊豆や山梨、千葉などでも物件を探した。この古民家を案内してくれたのは、以前に本サイトでも紹介した「ビルススタジオ」の中村純さん。里山に囲まれ、目の前を小川が流れる環境を、二人はひと目で気に入った。

「私は店舗を持たず、骨董市やイベントに出店して商品を販売しているので、どこにいても仕事ができます。それなら、思い切って環境がいいところを選ぼうと思ったんです。ここは、周囲に建物がなく自然が豊かでありながら、山奥のような孤立した場所ではなく、街なかやインターにも近い。そんな、ちょうどいい環境が気に入りました」

味わいのある美しいものに、もっと出会いたい

幼少期をイタリアやイギリスで過ごした奈々江さんは、7歳でいったん帰国したが、大学進学を機に再びイタリアへ。卒業後は、デザイン事務所に就職。10年間をイタリアで過ごした。古いものに興味を持つようになったのは、母親がアンティーク店を営んでいたことがきっかけだった。

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「身近に古道具や器などがあり、日常的に使っていました。また、子どもの頃から、母と一緒にイギリスのアンティークマーケットなどを巡っていたこともあり、自然と古いものにひかれるように。実はイタリアに住んでいたときから骨董市を巡っては、自分が気に入ったものを買い集めていたんです」

それを自分の仕事にしたいと思い始めたのは、5年ほど前のことだという。

「アンティークは、一点ものが大半。それぞれ違った歴史や味わいを持つ“美しいもの”に、もっと出会いたい。これからもたくさん目にしていきたいと思ったんです」

帰国を決心したのは、日本ではイタリアのアンティークを扱うお店が少なく、その魅力を日本の多くの人に紹介したいと思ったから。これまで触れる機会の少なかった、着物や日本舞踊などの日本文化にひかれたことも理由の一つだった。こうして2012年に日本へ戻った奈々江さんは、東京を拠点に骨董市やデパートの催事、カフェやアパレル店のイベントなどに出店。3年後に、足利へ移り住んだ。

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飾るためのものではなく、使って楽しめるものを

移住後も実店舗を持たず、骨董市やイベントに出店して商品を販売する奈々江さん。年に2回ほどは、仕入れのためにイタリアへ。イタリアでは大規模な骨董市はあまり開催されていないため、車で各地の小さな市やアンティークショップを巡って商品を探す。「体力勝負で大変ですが、『今日はどんな素敵なものに出会えるだろうか』というワクワク感のほうが大きく、本当に楽しいんです」と微笑む。

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イタリアのアンティークのなかでも、奈々江さんはテーブルウェアを中心に扱っている。年代は、18世紀から1970年代まで。飾るためのものではなく、普段の暮らしのなかで使って楽しめるもの、なるべくシンプルでおおらかなデザインのものを仕入れている。

「イタリアの器や道具は素朴で、温かみがあるのが特徴です。ぜひ飾るのではなく、日常のなかでどんどん使って楽しんでほしい。欠けや貫入などの経年変化も味わいになり、使うほどに美しさを増していくところも大きな魅力です」

足利の仲間たちとともに、新たなチャレンジを

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東京から足利に移り住んでよかったことは、四季の変化を肌で感じられるところだ。

「春夏秋冬がはっきりしていて、家の周りの景色も季節によって全然違うんです。冬の寒さなど、もちろん厳しい面もありますが、四季折々の自然の美しさを感じられるのは、とても贅沢だなって思います」

もう一つの大きな変化は、暮らしのために使う時間が増えたこと。

「草むしりや庭木の手入れなど、暮らしにまつわる仕事がこんなに多いとは、東京にいたころには想像もできませんでした。でも、それを含めてここでの暮らしは楽しい。実は移住後に、知り合いに教わりながら養蜂を始めたんです。いつか畑にも挑戦したい!足利に来たからこそできる暮らしを、楽しんでいけたらと思っています」

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仕事面では、これまではテーブルウェアなどの小物が中心だったが、これからは農具などの生活道具も扱っていきたいと考えるようになった。また、近くでカフェとギャラリーの「ねむの木」(上写真)を営む日馬純恵さんや、イタリアで修業した経験を持つ「御菓子司 ふくしまや」3代目の福島幸治さんなど、足利での人のつながりも広がりつつある。

「これからは地域の方との連携を広げ、一緒にイベントなどを開催していきたい。また、自宅の裏にある蔵を活用して、お店やイベントなど、何か面白いことができたらと考えています」

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